以前、「子どもの特性」を把握するといいことがある、という主旨の記事を書きました。
その記事では、子どもの特性、つまり「無意識に発揮される頭・心・体のクセ」を見つけていきましょうという話をしました。
でも抽象的な話にとどまったので、結局どう活用していいかわからないかもしれません。
参考になる考え方の例も挙げましたが、そのなかでも一番応用が効くというか、子どもに対して使い勝手が良いというか、単に私がおすすめしやすい理論を改めてご紹介します。
「特性」のおさらい
詳しくは記事を読んでいただければいいのですが、当記事を読むにあたって前提知識として必要な部分を抜粋します。
まず、私が一連の記事で掲げている「特性」とはこういうものです。
無意識に発揮される頭・心・体のクセ
・本人も親も気づかないことがある
・ポジティブもネガティブもない
この名称は専門的でも研究にもとづいたものでもなく、私がこのサイト上でこう呼ぶことにしているだけのものです。
そして、私は子どもの「特性」を知ることでこのようなメリットがあるとしています。
こうしたメリットがあることから、私は普段から子どもの「特性」を一つでも多く知りたいと観察を続けています。
でも私一人での観察には限界があります。どうしても自分の経験や価値観に引っ張られて、子どもの特性を誤認してしまう可能性があるからです。
誤認の程度と可能性を少しでも薄めるためには、子どもを取り巻く他の大人(配偶者、親戚、先生、近所、友人など)の意見を聞いたり、人を理解するための既存の「考え方」を活用することをおすすめしています。
今回ご紹介するのは、国内外で30年以上前から続いている研究に基づく考え方です。
その名も、「多重知能理論」または「MI理論」といいます。
子どもを知るために使う「考え方」
「理論」というと、そっとタブを閉じられてしまいそうな気がしているんですが、もうこれ以上出てこないので、もう少しお付き合いください。
「理論」は、今後「考え方」という言葉で置き換えます。
ここから先の話は、アメリカのハワード・ガードナー博士が1983年に発表した「考え方」をベースにして書いています。
この考え方によると、人にはそれぞれの「強みや特徴」があり、ものごとを理解したり考えたりする認知機能はその強みや特徴によって左右されるとしています。
この「強みや特徴」は、私が言っている「特性」にも含まれているものです。
無意識に発揮される頭・心・体のクセ
・本人も親も気づかないことがある
・ポジティブもネガティブもない
ガードナー博士の考え方では、その特徴を「8つの知能」として定義しています。この8つは、抜け・漏れ・ダブりがないように慎重に分類されています。
「知能」というと、IQテストで測られる知能指数のようなものを連想するかもしれません。
でも、ガードナー博士が定義している「知能」はもっと広い範囲をカバーしています。言い換えると、IQテストが測っているのはたくさんある知能のなかでも狭い領域だけということです。また、必ずしも数値化して測れるものではありません。
ガードナー博士の考え方によると、人の知能は一種類のテストで測れるほど単純ではないし、人には複数の知能を持っています。
その強弱(濃淡)や組み合わせは人それぞれです。たとえ一卵性双生児であっても、二人として同質な知能プロフィールを持つことはないといいます。
この「8つの知能」の考え方は、人が世界をどのように認知しているか、その傾向を知るためのツールです。
認知、というとまた難しく聞こえるかもしれません。
認知とは、「とらえる」「理解する」「感じる」とも言いかえられます。8つの知能は、人がの認知のクセを読み取るためのツールだといえます。
子どもをより深く理解するためには、8つの知能はとても便利です。なぜなら、子どもにとっては毎日の生活が強烈な認知体験の連続だからです。
子どもの何気ない生活は、認知のクセを見つけるチャンスの宝庫です。
そして子どもの認知(=あらゆる出来事に対する反応や捉え方)の傾向と対策を知ることは、子どもの「特性」の大部分を掴む手がかりになるんです。
あらゆる出来事に対する反応や捉え方の分類
子どもの「8つの知能」がわかるチェックリスト
「8つの知能」がそれぞれなにかを知る前に、さきにチェックリストを見てみてください。
教育現場という文脈における「8つの知能」の研究の第一人者であるトーマス・アームストロング博士の本(Multiple Intelligences in the Classroom)を参考に、A~Hまで8つのチェックリストを用意しました。
厳格なものではなく、こういうポイントで見分けるんだ〜とざっくりご覧ください。
こちらのリストは子ども向けのものです。特定の子を思い浮かべて、A~Hそれぞれのリストでいくつの項目に該当するか、カウントしてみてもいいでしょう。
チェックリストの意味
このチェックリストは、正確さを求めるというよりも各知能の相対的な強弱をゆるく知ることが目的です。
それでは、8つの知能をなるべく簡単に説明します。
もっと詳しく知りたくなったら、この記事の最後に参考文献やサイトのリンクをご参照ください。
考え事は言葉に頼りがち。
読み書きや会話、言葉遊びが好き。
本、オーディオ、筆記用具、紙、ノート、日記、対話、ディスカッション、ディベート、読み聞かせなどで活性化する。
喋っちゃいけないときにおしゃべりをして怒られがち。
考え事は論理や測量や数値に頼りがち。
実験、探求、論理的なパズル、計算が好き。
理科や実験材料、算数教材、科学館に行くこと、測量道具、電卓、コーディング・プログラミング教材などで活性化する。
考え事は絵や図表に頼りがち。
デザインや絵を描いたり、視覚化したり、落書きが好き。
画材、レゴ、映像、動画、カメラ、スライド、迷路、パズル、絵本、美術館に行くことなどで活性化する。
落書きや空想をして怒られがち。
考え事は体の感覚や動作に頼りがち。
踊ったり、走ったり、跳んだり、作ったり、触ったり、ボディランゲージが好き。
ロールプレイ、演劇、ダンス、プラモデル、レゴ、スポーツ、レクリエーション遊び、触覚体験、実践学習などで活性化する。
落ち着きがなく、じっとできなくて怒られがち。
考え事はリズムや曲調に頼りがち。
歌ったり口笛を吹いたり、リズムを刻んだり音楽を聴いたり、鼻歌や楽器を演奏するのが好き。
音楽、楽器、コンサート、作曲活動などで活性化する。
考え事をするとき、他人とアイディアをぶつけ合いたがる。
グループやチームで行動したり、委員になったり、関係づくり、パーティ、仲介をするのが好き。
友人、グループ活動、コミュニティ活動、イベント、クラブ、メンター、師弟関係などで活性化する。
人付き合いにかまけて怒られがち。
考え事は個人的な欲求、感情や目標に即する。
目標設定、瞑想、空想、計画、反省するのが好き。
隠れ家(秘密基地)、一人の時間、日記、裁量や自由が多い活動などで活性化する。
考え事は自然や自然の形を通して考えがち。
ペットと遊んだり、動植物を飼育したり、自然を探求したり、地球に優しい過ごし方が好き。
自然や動植物との充分なふれあい、自然を探求するための道具(虫眼鏡や双眼鏡など)で活性化する。
※「博物的知能」とも呼ばれますが、イメージしづらいのでここではその表現を使っていません。
観察するときのポイント
子どもをずっと観察し続けるのは難しいですし、非効率的ですし、なにより不自然です。
でも「特性を見つけよう」という以前の記事でもご紹介したとおり、子どものクセはこういうときに表れます。
注意すること
私たちは誰しもがこれらの知能を持っています。その強弱(濃淡)や組み合わせは人それぞれです。
“弱い”、”足りていない”と思われるところが目についても焦る必要はまったくありません。
極端な例ですが、「神童」としてとりあげられるような子はどれかの知能が突出していていることが予想されます。でも通常、メディアでは「突出していない」知能について触れることはありません。
また、知能がどれか突出していても、必ずしもそれが望ましい方向に発揮されるとも限りません。
世間一般で◯◯能力に注目が集まると、もとから持っている子はそれが発現してリードしていきます。
もともと苦手な子は、後から追いかけても差が開くような仕組みです。違う土俵で戦えばリードできていたかもしれないのに、わざわざ負けに行くようなものです。
もっと悪いのは、せっかく持っている知能が気づかれずにほったらかされることです。
目の前の子どもが持っている知能を見落とさないことが大事です。
すでにできていること、すでに発揮している知能は、なぜかいつも見落とされがちなんです。
すでに当たり前にできていることは、当人や身近なひとにとってはできて当たり前のことだと思われます。でも実はそうではありません。
観察の状況によって、子どもは異なる側面を見せることもあります。
観察しているのが先生か、親か、別の人か。
観察している場所が家なのか、学校なのか、習い事なのか、親戚の家なのか。
観察しているのが朝なのか夕方なのか、食事前なのか後なのか。
なるべくたくさんのサンプルを集めたほうが、誤差が少なくなります。
私の場合
上記のチェックリストは子ども仕様ですが、試しに私個人の該当項目を数えてみました。
自己評価と他己評価ではおそらく変わるでしょうが、このような結果になりました。カッコ内の数字が該当した項目の数です。
私の「8つの知能」の組み合わせ(推定)
内省や自己管理(10)>対人関係(9)>ことば(7)
音楽やリズム(5)>論理や数学(4)
視覚の活用や空間(3)=身体の活用や運動(3)=ものごとの違いや共通点を探す(3)
自分としては上位3つには納得ですが、もともと2つ目の対人関係には苦手意識があり、それを克服するために訓練した結果、できるようになった気もしています。
一方、たとえば空間認識と身体コーディネーションが低いのは納得です。たとえば車の運転は不得手です。
私はそもそも左右盲(左右がとっさにわからない)なのも、視覚や空間認識にあまり頼らないことと関係しているのかもしれません。
私のような人間には、運転よりも助手席を任せたほうが知能を活かしたいい仕事をします(笑)
人よりも道や地図(記号や文字)から多くの情報を得ますし、おしゃべり(対人とことば)は延々とできます。
実際に私がどの項目に該当したか興味がある方はこの下のトグルを開くと見れます。
私が持っている8つ知能には濃淡があることを感じていただけるかと思います。
そしてその濃淡や組み合わせは、きっとこれを読んでいるあなたとも、お子さまとも異なるはずです。
8つの知能の限界
「8つの知能」は多くの研究者に注目され続けていると同時に、批判も多く受けています。まだ発展途上の仮説です。
また、「8つの知能」を教育現場や子育てに活かしてどんな効果があるかについても、研究が不十分とも言われています。
ただ、発表から30年以上たった今も注目され続けていることは確かです。
たくさんの研究によって煮詰められた「8つの知能」という考え方を活用することは、自分では気づけないものの見方をさせてくれます。
「8つの知能」の検証は専門家に任せつつ、私たち一般人としてはその考え方が見せてくれる景色を味わっても差し支えないのではないかと思います。
「8つの知能」の考え方が示しているのは、人は一人ひとり違う能力の組み合わせを持っていて、それら能力はひとつのものさしで測れるほど単純ではないということです。それ自体は否定できません。
目の前の子どもの成長は待ってくれません。仮説で充分なので、トライアンドエラーを回し続けましょう。
仮説でもいいので、子どもを理解するために利用できるものを利用し、試して、しっくりこないなら次に移るんです。
知能パレットの使い方
これは私独自の表現ですが、ヒトはそれぞれの知能の濃淡と組み合わせによってできた「知能パレット」を持っています。
パレットとは、絵を描くときに使う絵の具を出して色を混ぜたりするお皿のことです。
子どもが持っている「8つの知能」の強弱や組み合わせは、その子だけの知能パレットです。
この知能パレットを知ったつもりになって満足してしまうのはもったいないです。
すでにあるものは、使えば伸びます。もっと使って伸ばしましょう。子どもの自信や充足感にもつながります。
逆に足りないところはカバーやフォローの方法を一緒に考えて、授けましょう。これもまた自信につながります。
足りないところにフォーカスして伸ばす、という方針も選ばれがちですが、同じリソースを割くなら「すでにあるもの」を伸ばしていくほうがより効果的です。
ゆくゆくは、自分の知能(強み)を活かせる/自分の弱みをフォローできるようになるのが理想です。
さらに好きなものと組み合わせられたらエネルギーが持続しますね。
知能と活動の結び方
子どもの活動には学習や習い事や遊びや家事など、いろいろあります。
どれか一つの知能に特化した活動はないですし、どんな活動にも複数の知能を使っています。
同じ活動でも、異なる知能パレットを持った子どもは違うプロセスやアウトプットをするでしょう。
子どもの活動をその子の知能パレットと結びつけるときは、以下のようなポイントに気を配ります。
これは、新しいことを学んだり試したりするときに特に有効です。
たとえば新しい料理を学ぶとき。
文字だけのレシピで十分なひともいれば、動画がないと作れないひと、感覚を頼りにつくるひと、人から教わりたいひと、とにかく見た目重視なひと、様々ですよね。
そこには、そのひとの知能パレットが表れているのでしょう。
まとめ
この記事では、子どもの特性を理解するひとつの考え方として「8つの知能」(MI理論)をご紹介しました。
あらゆる出来事に対する反応や捉え方の分類
ひとはそれぞれ、この8つの知能の組み合わせを持っているという考え方です。
子どもをより深く理解するためには、「8つの知能」はとても便利です。
あくまで「考え方」のひとつですので、絶対視する必要はありません。
賢く使って、子どもをより理解し、強みと自信を育てましょう。
なぜ子どもを理解すると強みと自信につながるか、はこの2つの記事でも触れています。
これらの記事をきっかけに、実りの多い子ども観察をしましょう。
参考文献
↓MI理論を最初に提唱したハワード・ガードナー博士の最新の書籍です。
↓こちらは同じ著者の和訳本としては、最新のものです。同じMI理論を扱っています。
↓ガードナー博士のMI理論に関するウェブサイト
↓ガードナー博士がアドバイスし、推薦した日本人研究者/芸術家有賀三夏さんの本。
↓8つの知能に独自の一つを付け加えた「9つの知能」を通して子どもを見ることについて語られています。
↓英語OKな方には、こちらが大変参考になります。学齢期の子どもに特化したMI理論の実践版です。この記事を書くにあたって多いに参考にさせていただきました。
↓日能研サイト内の解説です。子どもの読書リストを知能ごとに分類してくれているのも興味深いです。
実践してみてうまくいったこと、うまくいかなかったこと、ぜひTwitterかお問い合わせよりお聞かせください。