この記事は、後半の「学び編」と対になっています。
今、メディアはR国とU国の間の争いや、他国の動きについてのニュースで持ち切りですね。
軍事的な争いに限らず、日々ニュースは衝撃的な情報を流しています。そうしたものに触れてしまうのはもはや日常です。
当事者ではなくても、メディアや日常の会話を通して、その報道内容に暴露されています。
私はもう長らくテレビのない生活を続けていますが、それでもネットや本屋や街中の広告などで意図せず「情報の衝撃」に出くわすことがあります。
そうした衝撃への慣れや許容範囲は人それぞれです。
この記事では、特に「当事者ではないけど衝撃的な情報に暴露される子どもたち」に大人がどんなことができるのか、についてまとめています。
ここで挙げている「当事者ではない子どもたち」とは、身の安全や生活基盤を直ちに脅かされるほどの状況にない子を指しています。
日本に住んでいる子どもたちはほとんど該当するのではと考えています。
ただ、同じ時代を生きている国際市民としては誰もが当事者であることは忘れたくないです。
(また、渦中の国や人々にルーツやつながりを持ちながら日本や世界中に存在する子どもたちも存在しています。そうした子どもたちは、ここに書くことに加えて、より個別の状況や感じ方に合わせたケアが必要になると感じています。この記事ではそこまで個別具体的に寄り添えないかもしれないこと、予めご了承ください。)
この記事を書いた理由
以前、このようなツイートをしました。
私は普段から国内外の教育系メディアをインターネットで追いかけています。そして最近の国際情勢について、英語圏と日本語圏の記事にトレンドの違いを感じました。
日本語圏では「大人の一般読者」に向けて最新情勢や経緯を解説したり、予想や持論を展開する記事が多いと感じています。
一方、英語圏では「特定の職業や属性」に向けてカスタム化された記事を目にします。
具体的には、英語圏では普段子どもと接することが多い「先生」や「保護者」に向けて「子どもへの配慮」のヒントになる記事を比較的よく見ています。
ところが日本語圏では、そこまで細分化された記事はまだそんなに見られません。
そもそも発信側が「報道を目にする子どもたち」を認識していないのか、それとも読者ニーズが薄いなのか。
この傾向は、時間とともに変化すると私は思っています。
なぜなら「報道を目にする子どもたち」は確実に存在していて、そのなかには配慮を求めている子どもたちもいるからです。
このような傾向の違いは、私が普段フォローしているメディアの偏りがあるせいかもしれません。
でも英語圏のほうが発信人口も読者人口も大きいので、その内容の幅も深さもスピードも日本語圏を上回ると予想しています。
私は心理や政治や災害の専門家ではありませんが、いち保護者として私が学んでいることを、今後のために書き留めておきます。
「戦争報道を目にする子どもたち」にできる配慮
英語圏のメディアでは、「戦争報道を目にする子どもたち」にどんな配慮ができると語っているか。
各種記事をななめ読みして、私が抽出したポイントはこの2つです。
- 子どもたちが各種報道から受ける影響を知り、心のケアをする
- 今、起きていることを知り、考え、学びに活かす
なにを当たり前なことを、と思われるかもしれません。
でも、このいずれかでも「子どもに接する保護者・先生向け」に解説してくれる日本語の情報源って意外と少ないことに気づくはずです。
しかし、これはまったくの未知の領域ではないはずです。
だって自然災害が多い日本です。残念ですが災害報道は身近なものです。
そして、学校や園では定期的に避難訓練をして、過去の教訓を未来につなげています。家庭でも避難所の確認や備蓄など、それぞれされていると思います。
災害に関する報道を目にして心のケアを必要とする子どもたち。そして災害を教訓として引き継がれていく子どもたち。
こと災害に関していうと、馴染みがあるのではないでしょうか。
ならば世界で起きている「争い」を巡る子どもたちへの配慮についても、応用ができるのではないでしょうか。必要とされているのではないでしょうか。
この記事では、前編として「心のケア」にフォーカスを当てます。
「戦争報道を目にする子どもたち」の心のケア
参考になる日本語のリンクを紹介します。
セーブ・ザ・チルドレンという子ども支援専門の国際NGOの記事です。
さすが子ども支援専門ということもあり、心理士の協力のもと、いち早く日本語で「子どもと戦争ついて話すときの5つのポイント」をまとめられています。
- 子どもが話したいと思っている時に時間を作り、耳を傾ける
- 子どもに合わせて話をする
- 子どもの気持ちを受け止める
- 世界中の大人がこの問題を解決するために、懸命に努力していることを伝え、安心を促す
- 現実的な手助けをする
世界の医療団(メドゥサン・デュ・モンド ジャポン)という医療支援の国際NGOのウェブサイトにも、子どもに限らず世の中の不条理に影響を受けている人々の心のケアを「4つのR」としてまとめています。
- まずは不調が起こることを知ってください(Realizes)
- どんな不調が起こるかを知ってください(Recognizes)
- これらは自分のせいではありません(Responds)
- こころの傷が深くならないようにしてください(Resist-re traumatization)
リンク先にはこの他に、「こころが少しでも楽になるために」「苦しむ人の助けになるために周りの人ができること」などのアイディアも載っています。
セサミストリート公式Twitterもこのようなツイートをしています。
子どもも大人も、辛いときは無理しない。周りを頼る。できるならストレスの原因と距離を置く。これに尽きると思います。
子どものための心理的応急処置(PFA)
セーブ・ザ・チルドレンのサイトでは「誰もができる、緊急下の子どものこころのケア:子どものための心理的応急処置 (PFA for Children)」として、自然災害や事故を含む危機的な出来事全般に直面した子どもたちへの配慮をまとめています。
たとえ直接の被災・被害を受けていなくても、子どもにとっての「危機的な出来事」は心身に影響を及ぼします。
たとえば、どんな年齢の子どもでも示す可能性のある一般的なストレス反応として:
●再度同じようなことが起きるのではないかという不安を示す
https://www.savechildren.or.jp/lp/pfa/
●自分の大切な人や自分自身が傷ついたり、離れ離れになってしまうのではないかと不安になる
●破壊された自分の地域(地元)を見て反応を示す
●家族やきょうだいと離れることに反応を示す
●不眠になる
●泣く
リンク先には、年齢や認知発達段階別のストレス反応も細かく記載されています。
普段から子どもと接することが多い大人は、子どもが無意識に発しているサインをよく観察し、適切な支援や情報につなぐ判断をする必要があります。
また引用ですが、必要としている人には大切なこと。
●ストレスをもたらす出来事が起きた際、一番つらいことのひとつは、自分自身や大切な人の安全や健康状態について不安を抱えたり、心配したりすることです。子どもやその親・養育者の多くは次のことについて情報を求めます。
1)出来事、2)影響を受けた大切な人びと、3)自分たちの安全、4)自分たちの権利、5)必要な援助や物資を得る方法
https://www.savechildren.or.jp/lp/pfa/
子どものための心理的応急処置 (PFA) のパンフレットにもありますが、周りの大人のちょっとした配慮で子どもたちは自力で立ち直ることができます。必ずしも専門家の力を借りなくても、なんとかできるんです。
こうした実践例が、個人ブログレベルでも当然のように出てくるようになったら浸透しているという実感が持てますね。
子どもの権利について大人が知っておきたいことは過去にも書いています。知っておいて損はない。
トラウマインフォームドケア(TIC)
大阪教育大学の学校安全推進センターのサイトでは、トラウマインフォームドケア(TIC)についての情報が掲載されています。
トラウマインフォームドケア(TIC)とは、支援する多くの人たちがトラウマに関する知識や対応を身につけ、普段支援している人たちに「トラウマがあるかもしれない」という観点をもって対応する支援の枠組みです。
このTICという考え方は、2000年代以降、北米を中心に広がりを見せ、近年日本においても、医療、福祉、司法、教育の領域にも適応されるようになってきています。
http://ncssp.osaka-kyoiku.ac.jp/mental_care
学校の先生や保護者向けに子どものための心理的応急処置(PFA)や心理教育のためのリソースも提供されています。
かなり網羅されている印象です。ぜひご活用ください。
英語版:「戦争報道を目にする子どもたち」の心のケア
参考までに、英語で見かけた類似情報を載せておきます。
心のケア編のまとめ
普段の日本ではどちらかというと争いよりも自然災害の脅威をより身近に感じていることだと思います。
(争いの脅威も常に一定度あるんですけどね。あと地域差もあると思います)
自然災害でいうと、私は小学校低学年のときに阪神大震災で自宅が半壊以上になりました。が、数日で神戸を脱出できたこともあり、長い避難生活や復興の苦労は免れました。
また争いに関してもちょうど9.11のときに私はアメリカ東部にいました。身の危険はなかったとしても、地続きの緊迫感や恐怖は紛れもなくありました。
個人レベルでは不幸中の幸いな話ですが、周りにいる人が生活や家族・知人、職場を失ったことを想い、一種の「罪悪感」を長く背負い続けることになりました。
「自分だけこんなに安全で幸せでいいのだろうか」
「自分にももっとできたことがあったんじゃないか」
「こんなことで悩んでいるなんて、申し訳なくて言い出せない」
自然災害にせよ、争いにせよ、巻き込まれて受けた心の傷に違いはありません。
このような複雑な感情をポジティブな推進力に転換できるようになるには、時間と根気と周りの力が必要です。
衝撃、損失、負の感情、そこからの転換。その事象自体には大小あれど、この一連のプロセスを経験したからこそ、今の私のリスク感度や対処ノウハウがあると思うようになりました。
ただ、これも自分のことだけ。
自分の心をケアしながら子どもの心もケアするのはまた別の次元です。
実は1年以上前、私は子どもといるときに歩行者と車の交通事故を目撃してしまいました。自分も想定外のショックを受けているときに、子どもの心のケアまでするのは難しいことを痛烈に自覚しました。
この記事を書いているのは、その反省があるからかもしれません。
知識を持って準備しておけると、初動も変わります。一緒に学んでみませんか。
この記事は後編の「学び編」に続きます。